「はじめまして、うめたんです。」
うめたんFUJI店主(オーナー)の梅谷美知子と申します。兵庫県出身の私、うめたん(うちの屋号。梅谷のうめ+丹波のたんでうめたん)は13年間の東京ライフに区切りをつけ、兵庫県丹波篠山市東部の農村地域に移住してきました。地域の方にサポートされながらはじめた「うめたんFUJI」。ここがどうやって誕生したのか、これまでを振り返りながらご紹介します。
地域おこし協力隊として移住
移住前は東京・赤坂/六本木のベルギービールのレストランでサービスに従事していました。丹波篠山市(当時は篠山市)の地域おこし協力隊募集を知り、まちおこしを掛け合わせた起業を目標に2017年単身移住。任期中は丹波篠山の観光PR活動やモニターツアーなどを行っていました。
丹波篠山の魅力は質の良い食材が豊富であることと、『日本の原風景』があること。当初はコロナ前のインバウンド全盛期、丹波篠山に残る豊かな農村の暮らしを広く知ってもらいたいと意気込んでインバウンドツアーの企画催行など実施していました。
幼少期の多様な体験
全く意外かもしれませんが私は帰国子女です(外国語はほとんど話せないのですが…トホホ。)。思えば幼少期からアメリカ、尼崎、ドイツと異なる文化を経験しては転居の繰り返しでした。そのうちに、慣れ親しんだ町を飛び出し新しい環境に飛び込むことに抵抗感がない、どころかわくわくするような人間に育ったのだと思います。ふるさとは町工場の多い尼崎(同じ兵庫県)ですが、今では農村景色にすっかり馴染んでいます。
地域の魅力を伝える宿 うめたんFUJI 開業
うめたんFUJIは、丹波篠山市の地域おこし協力隊制度のお陰で開業までたどり着きました。地域おこし協力隊とは、「過疎化する地域へ、都会から若い人に移住してもらい2~3年以内に起業して地域に定住する」ことを目指す制度です。ノウハウもなく地域のつても全くなく、右も左もわからない状態からこの宿を開業できたのは、この制度によって様々なサポートを受けられたからです。何より「地域おこし協力隊」の受け入れを決めてくれた「村雲地区」のまちのみなさんの辛抱強い支えがあったから。
「地域に入る」という経験が初めての私は、地域で大切にされてきた礼儀や風習、伝統などがわからず度々失礼な言動もしていましたが、みなさん大らかな心で受け入れくれました。移住後すぐは、まずは草刈り機を購入して練習するのですが、せっかくアドバイスで教えてもらったガソリン式のものを買わずに「こっちの方が安くてエコだから」という理由で、ネットで充電式草刈り機を買い、全く使いものにならず、その時はさすがに怒られました…。なかなか宿として活用できる空き家が見つからず四苦八苦していましたが、移住3年目に村雲地区の方のご協力で、理想の家が見つかりました。それが、うめたんFUJIです(所在地は村雲地区の隣、大芋(おくも)地区)。
うめたんFUJIの名物は「食」
地域おこし協力隊の時から、積極的に人に会いに行って美味しいものを探求し続けました。自分からSNSなどでメッセージを送って出会ったり、お店に行ったり。特に生産者さんに関しては野菜の直売会とかイベント、時には畑に直接出向きます。
その理由は、お料理をお出しするときに生産者さんの人柄や思いなどの背景を知った上で、お客さんに自分の言葉で伝えたいから。なので、なるべく顔が見える人から購入しています。私のように小規模事業者に対しても、お店の方や生産者さんが相手してくださる、というのは田舎の良さです。
うめたんFUJIは山の谷底みたいなところにあって、なんにもないところですが、不思議と身近にいろんな生産者との繋がりができます。丹波篠山は小さなまちですがそれくらい豊富で多様な生産者が活動しているという大きな魅力があります。
山の幸とジビエを堪能する宿。うめたんFUJIは飲んで泊まれる居酒屋!
丹波篠山の食材のおいしさにどんどん惹かれていくのですが、その魅力は、実は黒豆や山の芋だけではなく、それらを含めた四季折々の旬を味わえる『山の幸』です。冬は厳しく夏はジメジメ…たった一日のあいだに15℃以上の寒暖差なんて日常、という気候には「オールシーズン売出中」のものが存在せず、代わりに目まぐるしく四季折々“旬”が入れ替わります。
春:蕗のとうに始まり山菜、菜の花、筍、花山椒。
初夏:葉もの、えんどう豆、たまねぎ。
夏:味山椒、唐辛子、ピーマン、トマト、茄子、ズッキーニなど夏野菜、西瓜。
鹿は春~夏を中心に年中美味。
秋:もちろん黒大豆枝豆、栗、松茸、新米、さつまいも、ぶどう。なんといっても栗餅。
冬:住山ごぼうなど根菜、白菜、12月から格別に脂がのる猪肉。
真冬:黒豆、山の芋。2月はおやすみ。
季節が目まぐるしく変化し、時に厳しく、瞬く間に旬がきては立ち去る。そのサイクルを何年か丹波篠山で過ごすうちに体が覚えてくるというのが極上のごちそうです。
野菜については、ほとんど市内の農家さんから購入します。この地域では、農家と非農家を区別するのは難しいです。というのも丹波篠山は多くの住民が農地付きの土地に住んでいますから、プロ農家でなくても農産物を作っています。そんなご近所さんに囲まれているんです。何がいつどんな調理法で美味しい、というのを地域のお母さんから教えてもらって郷土料理を楽しむのが、素材の魅力を知る近道です!
その上で、プロ農家が作る野菜の個性やルーツ・栽培方法を学び、その生産品を食べ自分なりに選んでいます。
猪と鹿については、猟師さんから色々と教わりました。
幸い、地域おこし協力隊任期中の同僚や関係者に何人か猟師(狩人)として活躍する若者がいて、彼らに野生動物たちを捕ることの意味や、美味しく頂くための基礎知識などを教えてもらいました。ほかにも地域には農業 × 猟師のダブルワーカー、それらを通じた6次産業を営む事業者もいて、多様な見識を学ぶ機会に恵まれました。さらには実食を重視し、皆さんが捌いた野生肉は一通り自分で食べて、調理法は彼らから聞いた方法を参考に何度も試行錯誤して追求しました。
自分が美味しい!と納得したものだけをお出しするので、お客さまが「美味しい!」と気に入っていただけたら本当に嬉しいです。
人と人の繋がりでいまも更新中のうめたんFUJI
はじめた頃は不思議そうに見守っていたご近所さんも、今ではお掃除を手伝ってくれるようになったり、お花植えを手伝ってくださったりしています。時には「明日はお客さんあるんか?」と電話が入って、10分後には大量のトマトが届けられたこともあります。
決して何か特別なものがある場所ではないのですが、当たり前のように蛍や星空、鳥のさえずりと共に四季が移ろい、そして何よりも「温かい人とのつながり」を感じてもらえる場所だと思います。
うめたんFUJIに来られる人へ
新型コロナウイルスの影響でのびのび自由に過ごすのが難しい期間が続きました。その間にも「行ってもよいですか?」と聞きながらわざわざ来てくれたお客様には感謝しておりますし、当初から地域のみなさんも、うちに泊まっているお客さんが散歩していると気さくに話しかけてくれています。隣のおばあさんは、散歩している人が気軽に摘み取りやすいように、通り際にプチトマトを植えて、「散歩している人がおったら、これ取って食べって言うねん。」と楽しそうに話してくれました。
この、のどかで美しく、心が休まる大藤の雰囲気をできるだけ維持できるように自分も力になりたいと思っています。これから、海外からの観光客も少しずつ戻ってくるでしょう。国内外のお客様にもっと田舎の魅力を伝えたいです。たった一人で始めたお宿は、決して一人では始められませんでした。ジビエ、野菜、クラフトビール、メニュー開発、テラスづくり・・・、周りの人の力を借りて、うめたんFUJIはゆっくりと成長していきます。
みなさんがリフレッシュして帰ってゆける、そんな宿でありたいと思っています。
お客様との出会いを、心待ちにしております。